漫画『コウノドリ』鈴ノ木ユウにインタビュー。「最後に向かってどう着地させるかを考えています」

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鈴ノ木ユウ氏

鈴ノ木ユウ氏

「いま、ここ」にいることは奇跡なんだ――『モーニング』(講談社 刊)で連載中の鈴ノ木ユウ氏原作の『コウノドリ』は、そんなことを実感する作品だ。聖ペルソナ総合医療センター産婦人科を舞台に、産科医や助産師など周産期医療にまつわる人々や、患者である妊婦やその家族などを描いた作品はコミックス累計600万部を突破。2017年9月には19巻が発売になり、10月からは2年ぶりにドラマ『コウノドリ』の続編もスタートするなど、連載から約5年が経った今でもさらなる広がりを見せている。自身も一児の父でもある原作者・鈴ノ木ユウ氏に話を聞いた。

ドラマは漫画と違うからこそおもしろい

――ドラマ『コウノドリ』の続編が決まったときはどう思われましたか?

「ああ、そうなんだ」と思いました(笑)。基本的に週刊誌での連載で時間的に追い込まれているので、「ドラマをまたやりますよ」と言われたときに「やったー!」という余裕がないんですよね。実感が沸いてきたのは、スタッフが帰ってひと段落した夜とかだった気がします。

――原作者から見てドラマ版のおもしろさはどのようなところだと思いますか?

漫画と違うからじゃないですかね。表現方法も違うし、一緒である必要はないと思うんです。だからこそ意味があるし、おもしろい。むしろ好きに話を作ってもらってもいいという話もしたんです。最初にプロデューサーと話をしたときに、基本的にコアになるものが変わっていなければ作り方としては同じものであるだろうという意識は感じたので、そこは安心してお任せできましたね。今回のシーズン2は漫画とは違う感じになっているのですごく楽しみですね。原作でも登場人物の転機となるきっかけの話を多く描いているので、そのあたりも気にしてくれたのかなとは思います。

「コウノドリ」(c)TBS

「コウノドリ」(c)TBS

――『コウノドリ』は妊娠・出産というデリケートなテーマを扱っていますが、話を作る際に一番大変なことはなんですか?

これは連載を始めたときから変わっていないのですが、読んだときに傷つく人がいる漫画ですよね。出産でいやな経験をした人が読んだときに全員納得いくようなものは描けないけれど、そういう人でも読まなきゃよかったとは思ってほしくないというのは今も変わらないですね。もちろん、2、3人は読まなきゃよかったと思う人はいるかもしれないけれど、読んでよかったって思ってくれる人がいるものを描かなきゃなと思います。

――傷つくかもしれない人がいるとわかっていて話を組み立てるのは大変ですよね。

大変ですよ。だから、最初はネームが通らなかったりもしましたね。『コウノドリ』は最初読み切りだったんですけど、それがボツになって。やめようかなと思ったときに編集担当が「もう一回やらない?」と言ってくれて、やり直すことになったんですね。そのときにものすごくたくさんのパターンを作ったんですよ。例えば、赤ちゃんが生まれるのか亡くなるのか、兄弟がいるのがいないのか、兄弟は男か女か……と考えられるパターンを全部洗い出して、そこからベストチョイスを選んだんです。その時期にそういうことをやったから、(『コウノドリ』という物語に)何が必要かが自分の中でわかった気がします。

息子の誕生を経て、“ギリギリ”から生まれた『コウノドリ』

――コウノドリでは妊娠・出産を経ての夫婦の変化も描かれていますが、鈴ノ木先生自身は奥さんの妊娠・出産を経て何か変化はありましたか?

僕は本当に出産に興味がなかったんですよ。妊娠中の奥さんに「大変だね、大丈夫?」とか言うんだけど、正直わかんないし……と思っていました。出産のときも立ち合い出産を希望していなかったので、昔のドラマでよくある、出産のときに廊下で旦那さんがベンチみたいなところに座っていて、産声が聞こえたら「あっ、生まれた……」って分娩室のほうを見る、みたいなのをやりたかったんですよ(笑)。だから、座る場所をどこにするか考えていたら、助産師さんに「あんたも来なよ」って言われて、分娩室に連れていかれたんです(笑)。

実際に見た出産はあまりにも衝撃的で。「ドラマと違う!」みたいな。奥さんは生まれるまでに丸2日間かかったんです。生まれるとなった瞬間、パチンと音がして、息子が生まれた。子供を抱っこしたときにすごく感動して、こんなに人生でうれしかったことないなって思ったんですよね。受験で合格するとか、告白した彼女とうまくいくとか、人生のなかでうれしかったことっていくつかあったと思うんですけど、それを超越したうれしさを感じました。すごく奥さんに感謝しましたね。自分のなかで大きな出来事だったし、それは今でも変わらないです。

『コウノドリ』はそれから3年後くらいに描き始めたんですけど、あの経験がなかったら、奥さんに「産婦人科の話、描かない?」と言われたときに描いてみようという気にならなかったと思うんですよね。

――出産当時はミュージシャンだったんですよね。

そうですね。だから、出産前は「子供ができたら大変じゃん。がんばって働かなきゃ」くらいにしか思っていなかったんです。『コウノドリ』の前の短期連載(『おれ達のメロディ』)をしたときまではバイトもしていて。その連載が終わって『コウノドリ』まで半年くらい期間があるのですが、またバイトしなきゃなって思っていたときに奥さんが「そんなことで働いたらだめだよ。とりあえず、いま次を決めなきゃその次はないよ。そのかわり、半年で決めて。6ヶ月間だったらなんとかなるから、それまで死ぬ気でがんばれ。それが無理だったらまたバイトすればいいじゃん」 と言ってくれたんです。それで6ヶ月ギリギリで『コウノドリ』ができた。奥さんはどちらかというと、やってだめならしょうがないけど、やらないのはよくないという考えの人。今でもそのスタンスは変わらないですね。僕が忙しくて死にそうになっているときに、「しんどかったらやめたらいいじゃん」と言ってくれるし。本当にありがたいですよね。

――そのような状況でも連載を続けているのは、まだ描くべきことがあるからですか?

そうですね。もちろん漫画なのでどこかで着地を作らないといけないですけど、そこに向かってどう着地をしていくかをいまはすごく考えています。最後に描くことは連載が始まったときから決まっているので、そこに向かってどう話を進めていくかが、これからの仕事になるのかなと思います。

――連載が終わったとしても、これからもずっと妊婦さんやその家族をはじめ、多くの人に愛される作品になるんでしょうね。

そうなってくれるとすごくうれしいですね。一番思うのは、例えば高校生のときに読んだ人が助産師さんになってくれたりしたらすごくうれしいですよね。たまに手紙とかもらうんですけど、読んでくれている人が、出産をした際に不幸な出来事があったけれど『コウノドリ』を読んでいたから現実を受け入れるのが早かったと。そういうふうに言ってもらえるとすごくよかったなと思うし、うれしいなという気持ちになりますね。

漫画も音楽も、人に惹かれる

――主人公・鴻鳥サクラは産婦人科医でもあり謎の天才ピアニスト・ベイビーでもあります。ベイビーは奥様の出産時の主治医・荻田和秀先生(りんくう総合医療センター)がモデルとなっているそうですが、ベイビーの音楽的なイメージはあるんですか?

産婦人科の話を描く前に音楽もので連載していたので、“音楽”というのがなんとなくテーマとしてあって。『おれ達のメロディ』では自分の経験を描いたので、これ以上のものはできないし、自分の知らない世界を描かないとこの世界では勝負できないなと思ったんです。そのときに奥さんと話していて、「産婦人科を描くなら荻田先生みたいに、ピアニストで、産婦人科医で、それですごいゴールドフィンガーなのがいいよ」「それだよ!」って。

もともとベイビーというキャラクターはいなかったんですよね。売れないジャズミュージシャンが産婦人科医をやっているという設定だったんですけど、担当が「前に売れないミュージシャンを描いてまた売れないの? 漫画家なんだから夢を叶えようよ。せめて今回は売れてるミュージシャンにしようよ」って天才ピアニストになったんです(笑)。

僕はジャズにはそれほど詳しくないんですけど、ビル・エヴァンスというピアニストが好きなので、音楽的には多分ビル・エヴァンスみたいな感じですかね。

――そうなんですね。先生自身も漫画家になる前はミュージシャンでしたが、影響を受けた音楽は? ザ・ローリング・ストーンズがお好きだと聞きました。

ストーンズも好きですし、いろいろ影響を受けているんですけど……ある程度年をとってからは矢沢永吉さんですね。永ちゃんはすごくポップじゃないですか。生きていてうまくいかなかったりしんどかったりすると、暗いことに自分が浸ることがいいと思いこんでしまう。20代は特にそうですよね。まだまだ先は長いんだなという余裕があるから。でも、だんだんそういうものも疲れてきて。そんなときに永ちゃんを見ていて「なんてポップな人なんだ。やっぱり暗いのはよくないな。暗いのは嫌いだ!」って思ったんですよね。もちろん音楽も含めてですけど、すごくポップだという意味で。

――では、影響を受けた漫画家は?

ストーリーでは小山ゆう先生。絵で影響を受けたのは高校のとき好きだった吉田聡先生。大人になってからは井上雄彦先生と土田世紀先生のふたりに影響を受けましたね。僕はもともと時代劇が好きということもあって、『バガボンド』を読み始めたらおもしろくて。絵も上手だし、右にでる人がいない漫画家なんだろうなと思いましたね。土田世紀先生は、(登場人物が)なんか青臭くて泥臭くて一生懸命で。そういうところがすごく好きですね。僕は弱者がうまくいかない話が好きなんでしょうね。

――最近読んだものでおもしろかったものは?

聲の形』ですね。大今良時先生の漫画はすごくおもしろいなと思いますね。人のことを描くのが上手な方というか。僕がそういう漫画が好きなんでしょうね。ファンタジーだとかアクションだとかは関係なく、人として何を考えているのかに興味があるんです。

――それは『コウノドリ』にも通ずる部分がありますね。ありがとうございました。

鈴ノ木ユウさん直筆『コウノドリ』のPOP

鈴ノ木ユウさん直筆『コウノドリ』のPOP

(インタビュー・文:岡崎咲子、写真:MASA(PHOEBE))

■書籍情報

『コウノドリ』

鈴ノ木ユウ 著、講談社 刊

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鈴ノ木ユウ(すずのき・ゆう)

1973年、山梨県出身。中華料理屋の長男として生まれ、幼少期からチャーハンを作り続ける。大学卒業後はロックスターを目指していたが、突然漫画を描くことを思い立つ。2007年『東京フォークマン/都会の月』が第52回ちばてつや賞準入選。2010年『エビチャーハン』が第57回ちばてつや賞入選と同時に本誌初掲載。2011年『おれ達のメロディ』を短期集中連載。『コウノドリ』は2012年8月の短期集中連載の時に大好評だったため、2013年春、週刊連載となり戻ってきた。

鈴ノ木ユウ Official Web Site

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