超音速旅客機ベンチャー、成功の可能性は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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<「コンコルド」からさらに進化した超音速旅客機は、日米間を5時間半で結ぶダイヤの利便性には期待できるが、フライト間の機体整備がポイントに>

ブーム・テクノロジー社は、2020年代半ばの実用化を目指して超音速機を開発中のベンチャー企業で、アメリカのコロラド州に本拠があります。JAL(日本航空)が12月5日に、このブーム社と資本・業務提携したと発表しました。JALは技術面での交流を行う他に1000万ドル(約11億円)を出資、超音速機20機分の優先発注権を獲得しています。

さて、超音速旅客機といえば20世紀後半に実用化された英仏共同開発による「コンコルド」が思い起こされます。1970年前後に、ソ連のTU144、ボーイングの2707と「三つどもえ」の開発競争をしたなかで、TUは絶望的な低燃費のために、またボーイングは環境問題から脱落したために、唯一実用化されたのがコンコルドでした。

ですが、実用化されたとはいえアメリカでは大陸上空の超音速飛行を禁止され、航続距離が長くないため、生産されたのは20機だけでした。大西洋線(主としてロンドン〔ヒースロー〕=ニューヨーク〔JFK〕、パリ〔ドゴール〕=ニューヨーク〔JFK〕など)で細々と定期便が就航しただけで、結局は21世紀初頭に事故によって信頼を失い、交換部品調達も難しくなって全機退役となっています。

では今回の「ブーム」はどうなのかというと、さすがにコンコルドと比較すると45年以上の時間による技術の進歩があり、性能は向上しているようです。巡航速度はマッハ2.2(時速2335キロ)、連続飛行距離4500海里(約8300キロ)ということで、羽田からサンフランシスコまでノンストップで届くようです。その場合の飛行時間は5時間半と言われています。

この「ブーム」ですがビジネスとしてはどうなのでしょうか? ちなみに、コストに関してブーム社は「現在のビジネスクラス運賃の4割から5割増程度の運賃で運航できる」としています。

問題は運航ダイヤです。太平洋線の場合は、時差を考慮しなくてはならず早ければ良いというわけではありません。果たして、「羽田=サンフランシスコが5時間半」というのは効果的かということです。

まず、東行きのダイヤを考えてみましょう。

最初に夜出発の場合を考えてみましょう。羽田を20時の出発、つまり一日の仕事を終えた後に空港に向かった場合ですが、到着は日本時間の25時半(翌日午前1時半)ということは17時間マイナスして、サンフランシスコ時間では朝の8時半になります。これは、まさに弾丸出張向け、しかも金曜の夜に日本を出て金曜の朝に着いてしまうのですから、時間の有効活用になります。昼夜のリズムとしては、アメリカから大西洋線の夜行で西欧に行く感じですが、ミソは時差の関係で「同じ日の朝に戻ってしまう」ということです。

一方で、羽田を朝出発という場合はこれとは異なります。朝の9時発ということで考えてみると、所要5時間半ということは、日本時間の14時半にサンフランシスコ着となります。これは、日付変更線を通過する関係で「サンフランシスコ時間の前日21時半」になります。急いで移動しても、夜になってしまいビジネス的にはムダという考え方もできますが、金曜の朝に日本を出て、木曜の晩にサンフランシスコに着いてゆっくり眠れるのであれば、悪くないという考え方もできます。超音速移動によって、重要な商談を控えて休養を取る「ゆとり」が可能になるというわけです。

では、西行きはどうでしょう?



仮に超高度を飛ぶのでジェット気流の影響が少なく、西行きでも5時間半で行けるという前提で考えてみます。まず、サンフランシスコ朝の8時発だと、羽田は日本時間の「翌日の朝6時半着」になります。これまでは、移動と時差で2日が潰れていたのが、移動ロスは1日で済むという感覚です。

また、夕刻発ですとサンフランシスコ19時発で羽田が「翌日の17時半」となり、これも1日ロスで済みます。ちなみに、西行きの場合は、地球の自転とほとんど同じ速度で飛んでしまうので昼に出発すれば昼に着くし、夜に出れば夜に着くということで、ダイヤ的には自由度が高そうです。

この超音速機、アメリカ大陸の場合は陸上の超音速飛行は今でも禁止されています。ですから、活躍の場面は洋上ルートに限るわけですが、どうやら「羽田=サンフランシスコ」というルートの場合は、かなり効果がありそうです。これに加えて、時差を考える必要のないアジア圏内の「羽田=香港が2時間」とか「羽田=シンガポールが3時間半」といったルートもビジネス的には妙味がありそうです。

70年代の「コンコルド」の際には3機しか発注しなかった(もちろん、後にキャンセルしていますが)JALが、今回は20機発注したというのには、こうした利便性への期待がありそうです。

ただしエンジン3発でマッハ2.2の巡航というのは、いかに最新鋭の設計や素材が投入されるにしても、現在の亜音速機とはエンジンへの負担が全く違うと思います。機体が高温にさらされる点も、気になります。「ブーム」機については、約9000キロで一回給油と短い点検をすれば計1万8000キロは一気に飛べるとしていますが、その後の軽整備がどのくらい時間がかかるかは分かりません。コンコルドの場合も整備費は亜音速機の4倍と言われていましたが、整備の問題は大きなポイントになると思います。

ちなみに、こうした超音速機については日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)も研究を進めています。こちらは、速度をマッハ1.6に抑えると同時に胴体の空力設計にも工夫をしてソニックブームを低減した「静粛型」を目指しており「ブーム」とはコンセプトが異なります。洋上ルート向けの「ブーム」とは別に、陸上ルート向けの「JAXA」というすみ分けができれば面白そうです。

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