僕、いつまで妊娠させられますか?―「せめて自分の精子には興味をもってもらいたい 【香川則子さんインタビュー前編】

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生殖工学博士 香川則子さん

 千葉県浦安市の浦安市議会は、順天堂大浦安病院と協力し、卵子凍結保存の研究支援として補助金を出す事業を可決した。今後、浦安市に住む女性(排卵時の年齢が20~34歳)で、将来の出産に備えたい人が卵子凍結保存する場合、費用の3割程度の負担でできるよう調整するそうだ。これは少子化対策の一環であって、決して高齢出産を助長するわけではなく、出産適齢期を考えるきっかけにしてもらいたいという意図があるそうだ。日本の2013年の合計特殊出生率は1.43、この低い状態が続くと、2060年の日本の人口は8674万人にまで減ると見込まれている。少子化対策は喫緊の課題だ。

 そこで、浦安市のプロジェクトにも参加していて、ヒトの卵子保存プロジェクトや、海外での絶滅危惧種保護のプロジェクトを担当するなど生殖医療を研究し、現在は卵子を凍結保存する「プリンセスバンク」の代表を務める「生殖」と「卵子」のプロである生殖工学博士の香川則子さんに、男性編集者と男性ライターという「男2人」で卵子の話を聞きに行くことにした。

【男は「妊娠・出産」について何も知らない!】

 卵子凍結のニュースを耳にしたことがきっかけとなり、香川さんが出版した『私、いつまで産めますか? 卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存』(香川 則子 :著、 加賀谷 奏子 :イラスト/ WAVE出版)を読んだところ、男は妊娠・出産はおろか、女性の体のことについてほとんど何も知らないことを痛感した。卵子凍結とは何かという以前に、これまでの人生で卵子のことについて考えたのは、学生の時の生物の授業くらいしかなかった。そんな言葉をぶつけると、「男性はもちろんそうでしょうけど、女性も自分の体のことを知らない人が多いのでこの本を書いたんです」と香川さん。

「40代の妊娠・出産が報道されることがありますけど、それは珍しいから報道されるんです。医学的に女性が最も子どもを産みやすい年齢は25~34歳といわれています。しかし高齢出産のニュースを情報としてインプットしてしまうので、40代でも生理があれば誰でも子どもが産めると思われてしまうんですね。ただ妊娠する能力は個人個人で違うものですし、どの卵子が赤ちゃんになるのかもわからない、そして努力をしても致し方ない部分というのはどうしてもあるものです。また妊娠=出産という捉え方もされてしまうのですが、高齢出産になればなるほど流産するリスクも高くなります。現在の妊娠・出産には、こうした“現実”と“イメージ”のズレが生まれているということがあるんですよ」

 年齢別の流産率は25歳で13.1%、それが35歳になると20.3%、39歳で30.4%、41歳では42.3%と年齢とともに急激に上がっていくという。こうした「現実」を後になって知り、「もっと早く知りたかった」という女性は多いという。もちろん男性はまったく知らない人ばかりだろう。

 さらに“現実”と“イメージ”のズレは「男女の立場の違いによる結婚への思い」にもあると香川さんは言う。2013年度版『厚生労働白書―若者の意識を探る―』によると、平均初婚年齢は夫30.8歳、妻29.2歳だ。そして未婚者の平均希望結婚年齢も男30.4歳、女28.4歳。現在では30歳前後が「結婚適齢期」になっているのだ。

「男性は家庭を持つことで、仕事をする自分の応援をして欲しいと思っている場合が多いんです。ちょうど30歳頃は役職がついたり、責任のある立場になりますからね。そうすると家庭をしっかりさせるために仕事を頑張りたいと思って、子作りはあと5年待って欲しい、というようなことを言うんです。しかし女性は30歳の壁を感じ、子どもが欲しいと思って結婚している場合が多い。年齢的なことがあるから本当はすぐに欲しいのに、もう少し先でいいと言われてしまう。私は結婚・出産のために仕事のキャリアを我慢したのにと思ったり、5年経ってようやく、と思ったら全然妊娠できないとわかったり…こうやって男女の齟齬が起きるんです。結婚前に付き合っているときは相性が良かったけれど、結婚していざ子どもの話となると意見が合わなくなる。子供のことって、結婚、家族、親族、男女の産み分け、仕事のキャリアなど、小さくない問題が付随してくるんですよ。特に親は子どもが結婚すると、嫁を通り越して孫を欲しがるという傾向もありますしね」

 しかし「子作りはあと5年待って欲しい」というセリフには、男の勝手な思い込みがある。「男は何歳になっても精子が出れば妊娠させられる」…もしそう思っているなら、今すぐに考えを改めて欲しい。これは大きな勘違いなのだ。

【卵子だけではなく、精子だって老化する】

「女性の卵子が老化する」ということを広く世間に知らしめたのは、2012年にNHKで放送された番組『クローズアップ現代』の「産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~」だった(反響が大きく、その後シリーズ化されて多くの番組が放送された)。しかし「卵子老化」のインパクトが強すぎたこともあり、「女性は35歳を超えると妊娠が難しくなる」ということだけがひとり歩きしてしまったという。

「女性も30歳頃というのは仕事も楽しいし、責任ある立場になっているものです。しかしもっとキャリアを積もうとか、楽しいからいまは仕事に集中したいとかいっているうちに、うっかり35歳を過ぎ、産みづらい年齡になってしまう。それで慌てて婚活をするけれど、“産めない”と思われている年齡だと結婚もしてもらえないという現実があるんです。それで破談になった方もいますし、見合いリストにも入れてもらえないということもあって、さらに出会いが難航してしまうんです。そしてアラフォーになると、年上の男性から“子どもが産めない年齡なら、親の介護をして欲しい”ということを求められてしまうんです。子どもができなくても素敵な方はたくさんいるのに…本当にひどい話です」

 卵巣で眠っている卵母細胞(未熟な卵子)が卵子になるには「減数分裂」を行う。しかし卵子が老化すると、この分裂がうまく行かず、染色体を分離させることができなくなる場合がある。もしその卵子が精子と受精したとしても、染色体にエラーがある受精卵ができてしまい、正常に育たなかったり、着床がうまくできなかったり、着床したとしても流産してしまうことがあるという。これが高齢になると妊娠・出産が難しくなる理由だ。しかし老化は卵子ばかりではない。「男性だって30代前半~半ばくらいになると、精子が老化するんですよ」と香川さんは強調する。

「女性は初婚で30代、男性は再婚で年上という夫婦が不妊治療をしたとき、男性は“自分は前妻との間に子どもがいるから、不妊は妻が原因”とおっしゃったんですね。でもそれは推測でわかる問題じゃないんです。それで調べてみると、男性の精子が少ないことが不妊の原因でした。これは加齢によって起こることなのでごく普通のことなんですが、奥様は“旦那には黙っていて欲しい”と言うんです。夫婦関係が変わってしまうから、と。私は『いいんですか?』と念押ししたんですけど、奥様はそれでいいと。結果的に妊娠できる精子があったので、顕微授精をして、無事に子どもが生まれたんですが」

また不妊治療の現場で、男性側は「顕微授精じゃなくて精子の振りかけ(体外受精)でやって欲しい」という人が多いという。「顕微授精なら、元気な精子を選んで針で卵子に挿すので確実に受精卵になるんですが、振りかけだと、受精しない場合があるんですよ。でも男性は“卵子の殻をぶち破って受精して欲しい”とか思うんでしょうかね? 精子と違って、卵子が貴重なものだってことをわかってないんでしょうけど」

 男の沽券に関わるからだろうか? いくつになっても、愚息に振り回される男たちの愚かさよ…。

「男性って自分にとって不都合なことは知りたくないものなのか、不妊治療に女性の付き添いで来て、精子も調べましょうと言うと“自分はいいです”という方が多いんですよね。でも納得してもらって、検査の結果精子が元気なことがわかると、まるでヤクザ映画を観た後みたいに自信満々になって帰っていくんです(笑)。ただストレスがかかると、精子って少なくなってしまうものなんです。白血球が精子を食べてしまうんですね。ストレスがかかっている体を守ろうとするんです。今は子作りどころじゃないぞ、と。そのことを男性は知ってますか? 私は、男性に“卵子に興味を持て”とまでは言いません。もちろん興味を持ってもらいたいんですけど、その前に、せめて自分の精子には興味をもってもらいたいんです。その時の体調で結果は変わるので、一度の検査で一喜一憂せず、自分の精子が女性を妊娠させられるのかどうか、まずはそのことをしっかり知って欲しいですね。妊娠は夫婦2人の問題です。女性の立場から見ると、こういうところで非協力的な男性と、協力して子育てをしていけるのか……と心配になってしまうんですよね」

 量が出るとかよく飛ぶとか、10代の男子が考えるようなことではなく、「精液の中に精子がいるのかどうか」が重要なのだ。たくさんいなくても、卵子と受精できる元気な精子があればとりあえずはOK。少なかったからといって、落ち込む必要はない。とにかく妊娠・出産に関することを女性だけに任せるというのは時代遅れの間違った認識であり、不妊の原因の半分は男にもあるということをしっかりと自覚すべきなのだ。

文=成田全(ナリタタモツ)

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