僕、いつまで妊娠させられますか?―「せめて自分の精子には興味をもってもらいたい 【香川則子さんインタビュー後編】

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『私、いつまで産めますか? 卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存』(香川則子/WAVE出版)

 【前編】では、男性と女性の立場の違いによる結婚後の子作りのすれ違い、そして卵子ばかりか精子も老化するという、ほとんどの男性が知らないであろう話が飛び出した。【後編】では、さらに妊娠・出産について女性に知って欲しいこと、そして男性は女性をどうサポートしたらいいのかについて聞いた。

【産む体の状態にするには「年単位」かかる】

 第1子出産時の母親の平均年齡は年々上がり続けている。2011年にはついに30歳を超え、2013年は30.4歳となった(厚生労働省「人口動態統計」)。これは第2子、第3子を望むのであれば、急がないと「産めなくなる可能性が高い年齢になってしまう」という状態にある。さらには働く女性に対するマタニティ・ハラスメントや保育園の待機児童問題など、子どもを産み育てる環境は現在かなり厳しいと言えるだろう。

「私のところへ卵子凍結の相談をしにくる方は、責任感の強い女性が多いんです。“今やっているプロジェクトが終わったら卵子を凍結したい、でも今はちょっと無理なんです。それで先生、私はいつまで産めますか?”と聞いてくるんですね。そう聞かれたら、私は“今ですよ、なうです!”と言っています。産みたいと思った時が産みどきなんですよ。でもこういう方は、子作りも時間のコマのひとつになっているんですよね。仕事のスケジュールと一緒なんです」

 しかし子どもが欲しいと思ってから、ちゃんと「産める体」になるまでには時間がかかるものだという。本書『私、いつまで産めますか?』(香川則子/WAVE出版)ではその産める体の状態にすることを「エア妊活」と呼び、産みたい気持ちがある人は、今パートナーがいないとしてもすぐに始めるよう促している。

「仕事が忙しいから生理が来ないのは都合がいい、楽だ、と思うのがそもそもおかしいんですよ。女性もストレスが強まると排卵しなかったりするんですが、それって生理の周期がむちゃくちゃになってるってことですからね。さらに眠れないからと薬を飲んだり、栄養ドリンクを飲んで無理したりして、女性がおじさんみたいになっちゃってるんです。感覚が麻痺して、性別を超えてしまうんですよ。そんな人が仕事モードで“課題をお願いします!”みたいな感じで卵子凍結の話をしに来るので、子どもはそうやって作るものではないんですよ、と言うところから始めています。産める体になるには、まず女性たちが仕事モードの時に着ている鎧を脱がせて、おじさん化しているヒゲを抜いてあげないといけない。プレお母さんの状態に戻すのは、年単位かかるものなんです」

 同行した編集者の妻も、妊活のために仕事をセーブし、体調を整えて妊娠するまでに2年かかったという。

「自然妊娠の方が子どもを持てる確率は高い、ということをまず知ってください。ちなみに体外受精を受ける女性の平均年齡は39歳、しかもチャレンジした人の10%しか成功しないんです。アラフォー世代で妊娠した人は、その過半数が自然妊娠なんです。今は5、6組に1組のカップルが子どもを作れないという状況で、これは小さくない数字なんですが、検査をしてみるとお互い体には問題ない、精神的な面で難しいという場合が多いんです。なので子どもを作ろうと焦らず、構えずにセックスをすることが大事なんだと思うんです。日本人がセックスをするのは年間40回という統計がありますけど、これは非常に少ない。一番多いギリシャは年間140回ですから、1/3以下です。自然妊娠をするためには、ある程度数を打たないと当たらないということはありますから。ちなみに、子どもを作ろうと週に2~3回、2年続けてセックスをしても妊娠できない、というのが医学的見地からの“不妊症”です。でも多くの人はもっと早く諦めてしまっているんですよ。そういう人たちは不妊治療をしなくても、本来は自然妊娠できたはずの人であるわけです」

 香川さんは「卵子凍結」を推奨しているわけではない。病気で産めなくなることに備えたり、2人目を希望しているのにのできにくいという「2人目不妊」に備えたりというのが卵子凍結保存の本来の目的であり、最初から高齢出産を目指して行うものではないのだ。

「35~39歳は平均5人に1人が妊娠・出産できますが、40~44歳は25人に1人。高年齢になっても産める“保険”として卵子の凍結をするんです。私もゆくゆくは産みたい、本当は自分が3人きょうだいだから、できたら3人、でもそれだと大変だから、せめて2人はと思っていたんです。20代の頃、私が実家に帰省するたびに母からの産め産め攻撃がとにかくスゴかった(笑)。『女たるもの』から始まって、30歳目前になってくると“いい加減にしなさい”と許されない状況になりました。産む気はある、でも今はできない、落ち着いたら…ということで私も卵子を30代前半に凍結して、その写真を親に見せて免罪符としました。でもその後、2年くらいかけて産める体の状態に戻して、仕事も明日でいいことは明日、緊急時以外は急がない、という働き方をして、排卵日もちゃんと調べて、これでダメだったら凍結卵子を使おう、と思っていたところ自然妊娠をして、子どもを産みました」

 香川さんと同じく、卵子の凍結をすることで自分の体と向き合い、体調を整えたりしたことで自然妊娠するという人はとても多いそうだ。

「卵子を凍結保存すると、卵子を使うか使わないかを後で決められるんです。しかし採卵には痛みや不安もあります。心や体も含めてどんなメリットが、そしてどんなデメリットがあるのかをきちんと提示して、それを知った上で選択してもらうということを大事にしています。また卵子の老化を食い止めたい、何が何でも結婚して子どもを産みたい、と自分を追い詰めてネジれてしまう人もいるので、そういった人の気持ちを緩和してあげることもできるんです」

 ただ不妊治療や卵子凍結保存には多額の費用がかかる。香川さんは「辛い思いをして、少なくない額のお金を投資する必要が本当にあるのかどうか、きちんと考えてみて欲しいですね」と、安易なチョイスには釘を刺している。卵子凍結とはどんなことをするのか、またそこにはどういった問題があるのか、費用はどのくらいかかるのかなどはぜひ本書で確かめて欲しい。

【男性には女性の痛みや気持ちを知って欲しい】

「女性には、なりふり構わず、どうしても子どもを産みたいという強い気持ちが生まれるときがあるんです。男性には“どうしても俺の子が欲しい”という女性と同じような強い気持ちが生まれるときって、ないですよね?」

 そう香川さんに聞かれ、男女の一番大きな「ズレ」は、どうしても自分の子どもを産みたい、欲しいと強い気持ちを抱く「温度差」にあるように感じた。もちろん男性も自分の子どもが欲しいとは思うが、気持ちの強さは、自分の体内に命を宿す女性の比ではないのだ。そして心のどこかで、男は「妊娠・出産は自分には関係ない、それは女の仕事だ」と思っていないだろうか? それとも「男は妊娠・出産の話題には触れてはいけない」と暗に幼い頃から刷り込まれてきたからだろうか?

「妊娠は女性の問題、男性はタッチしないものという“呪い”を早く解いて欲しいですね。これは性教育に問題があると思うんですが、基本的に性教育では“初潮”のこと、そして“避妊”のことを教えるんですよね。でも妊娠、出産、産後、子育て、そして男性がどう女性をサポートしていくべきかという協力体制まで含めて、小中学生だけではなく高校生、大学生になってからもしっかりと“いのちの授業”として教える方がいいんじゃないかなと私は思っています。そうすることで男性にも“当事者意識”を持ってもらえるのではないかと思うんです」

 妊娠・出産に対して男女で考え方や感じ方、捉え方に温度差があるということをきちんとわかっていれば、結婚前に子どもをどうするか話し合うことがいかに大事かも自ずとわかるだろう。

「どういう家庭にしたいのか、子どもはいつ頃欲しいのか、結婚前に話し合えれば対策できますよね。よくよく話してみると、実は子どもが欲しくないという人もいるわけですから。そういう男性は仕事が忙しいとか、家にいる時間を短くするとか、子どもの話が出ると機嫌を悪くしたりするんですよ。でもそういうとき、女性は“私には確実にリミットがある”ということをはっきり言うべきです。その返答次第ではパートナーシップの解消も視野に入ってきますよね」

 実際に不妊治療をしたり、妊娠・出産する際に体に大きな負担がかかるのは女性だ。もちろんその後の子育ても「基本的には女性がするもの」といった風潮がある。しかしそうした旧態依然としたことを取っ払って、男性としていかに女性と子育てをサポートしていくのかを考えなければいけない。「俺は毎日外で働いてるからいいじゃねぇか」なんてのは、男の発するセリフの中で最低なものなのだ。

「30代後半になると、流産の可能性は2割を超えます。でも男性は、胎児が流れてしまうことを体感していないので、小さく捉えてしまいがちなんです。だから“また今度頑張ればいいじゃない”とか言ってしまう。そうではなく“ツライよね”と声をかけてあげて欲しいんです。そして心も体も元気になってから、今後どうしたいのかを女性に聞いてください。ツラい姿や孤独を癒やす時間を、カップルの間で作ってもらいたいんです。また不妊治療であれば“卵採れた?”などと聞くのではなく、“大丈夫?”と言ってあげて欲しい。体調が悪そうなら“ご飯作ろうか?”と声をかけて欲しいんです。排卵を促すホルモン注射というのは、とても痛いんです。また卵巣刺激をするために体に針を刺すのですが、いくら無痛針とはいっても痛いものなんですよ。とにかく男性には、こうした女性の痛みや気持ちを知っていてもらえればと思います。肉体的に違いますから、なかなか女性と同じようにいかないのはわかりますが、精神的な面でどうサポートしたらいいのかということを、パートナーシップのひとつとして知っておいて欲しいんです。そして卵子や精子がどう受精し、胎児はどうやって育つのかなど、妊娠・出産に関して、日常的にもっとフランクに語れるようになるといいですね。それが男性同士でも、親子でも自然に話せるようになると、女性にとってストレスのない環境になるんじゃないかなと思うんです」

【「少子化」は人間の本能と社会のシステムのズレが原因】

先日、配偶者が出産した直後の男性の休暇取得率を、2020年までに80%となるような目標を新設した「少子化社会対策大綱」の原案に関する報道があった。政府は2015年から5年間を少子化対策強化の集中取り組み期間と位置付けていて、「男女の働き方改革」「3人以上の子どもを持つ世帯への配慮」「若い年齢での結婚・出産の希望実現」などを重要課題に掲げている。また「男性の育児休業の取得率を13%に増やす」という取り組みもなされるようだが、これが絵に描いた餅にならなければ、子どもを産み、育てる環境は今よりも改善することだろう。それには社会全体の「意識改革」も必要になる。

「いつ子どもができても、女性が人生で損をせず、子どもができたことを後悔しないようなサポート作りをしないといけないんです。子どもができたことによって何もできなくなってしまう、というネガティブな状況ではダメなんです。でも今の状況では、先輩のワーキングマザーたちを見ると大変そうにしか思えない。これでは『産みたい』と思う人が減ってしまいますよ」

 実は『私、いつまで産めますか?』のもともとのタイトルは『社会性不妊』だったという。この「社会性」は、会社の産休のシステムや子育てのサポート体制の不備など、日本の構造的な問題を指している。もちろんここには、男性や産みどきの女性以外の認識不足や不寛容も含まれている。ベビーカーで電車に乗ることに対して否定的な意見が数多くあったのがいい例だろう。そして「私たちの若いころは……」と話すおじさんやおばさんたちの話に、いちいち耳を傾ける必要はない。今は時代も、状況もまるで違うのだ。

「少子化は、人間の本能と社会のシステムのズレが大きくなりすぎていることが原因です。社会で子どもを養っていくという姿勢がないんですね。今は不妊も、少子化も個人のせいということにされていますけど、そんなレベルでは何も解決できません。そして女性ばかりが犠牲になって、大変な思いをしている。仕事も続けていきたい、でも子どもは欲しい、じゃあ産みたいときに産むにはどうするのか? そんな人たちに助成金を出して、安心して子どもを産めるよう卵子凍結するというのが、今回、浦安市で卵子凍結プロジェクトを行う目的です。卵子を凍結保存することで人口が増えるという仮説を検証し、きちんとそれをエビデンスとして見せる、効果があるということを実証しようとしているんです。どうしたら働きながら産み、育てられるのかを考えていかないと、少子化の問題は絶対に解決しません」

 今はまだ男性が子育てに参加すると「イクメン」と持てはやされ、産休を取ると「すごい」と言われる。でもそれは女性がやったら当たり前と言われて終わりのことなのだ。「男性がやって当たり前」という社会にならない限り、このまま出生率は下がり続けるだろうし、政府が推進している「すべての女性が輝く社会づくり」なんて絵空事のまま、誰も輝かずに終わってしまうはずだ。

香川さんは本書の中で、子どもを生むためには気持ちをオフにする生活習慣を意識して欲しいと語っている。子どもが欲しい、それには何をしないといけない、とスイッチを「オン」にするのではなく、凝り固まった感情を解きほぐし、気持ちを開くような「オフ」が大事だという。これは社会も同じだ。カチカチに固まっている固定観念を打破し、様々な情報を得て相手のことを知ることが、これからの社会に必要なのだ。

そのためには男はまず自分の精子について知り、さらに本書を読んで、妊娠・出産についてもっと知るべきなのだ。そして女性も自分の体について正しい知識を得る。そうやっていろんなことをオンしてオンしてオンしまくった上で、相手の気持ちをオフにしてあげられる優しい人たちが増えることを願ってやまない。

文=成田全(ナリタタモツ)

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