低迷スーパー「ホールフーズ」を買ったアマゾンの皮算用

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<世間を騒がせた巨額買収と新分野参入――高級自然食品チェーン「ホールフーズ」をアマゾンはいかにして再生するのか>

昨秋の蒸し暑い平日の午後、ルイジアナ州ニューオーリンズのブロード・ストリートは不気味に静まり返っていた。寂れた通りに立ち並ぶのは自動車用品店や自動車整備工場、中国料理店、美容用品店。そしてその先に、アメリカで最も高級な自然食品チェーン、ホールフーズ・マーケットの店舗がある。

店内は閑散としているはず......そんな予想は外れた。地元産の食品がずらりと並ぶ通路はさまざまな年代や人種の買い物客でいっぱいで、ここはニューヨークかと錯覚しそうになる。

ホールフーズが出店すれば、ブロード・ストリートのような場所でも繁盛する。食品業界では羨むべき話だ。だがこの10年ほどの間に、ホールフーズは売上高も同社ならではのカルチャーも失いつつある。かつては各地で唯一の自然食品スーパーを展開する企業という特別な地位にあったが、今では多くのライバルに追撃されている。

アメリカ人消費者は、より割安な自然食品をトレーダー・ジョーズやコストコ、クローガーで購入できるようになった。ホールフーズの株価は今年6月、4年前の半値に下落。米アマゾン・ドットコムが同社を137億ドルで買収すると発表したのはその直後だ。

【参考記事】アマゾンの複雑で周到過ぎる節税対策

既に指摘されていることだが、ホールフーズは長年、最高級の食品を売っているという口実の下、高過ぎる価格設定で顧客を搾取してきた。そうこうするうちに、台頭したライバル企業に市場シェアを奪われ、ブランド力を損なわれ、倫理的に取引されたヘルシーな食品の提供を使命とする企業ではなく、高額な商品を販売して「ホールペイチェック(給料全部)」を持っていく店と見なされるようになった。

「(ホールフーズが80年に創業してからの)20~30年間は、価格設定はオーガニックの自然食品の値段としては妥当だった」。ポートランド州立大学の経済学准教授で、ホールフーズについて研究したブライアン・ボルトンはそう指摘する。「でも、今は違う。同社の競争優位性もはっきりしなくなった。価格でも品ぞろえでもないし、店舗の立地条件でもあり得ない」

根強いホールフーズファンは、利益を追求する「強欲」なアマゾンによる買収を不安視する。だがホールフーズはとっくの昔に、カネのために使命を捨てている。92年にナスダックに上場したときだ。

同社のジョン・マッキーCEOは、短期投資家やウォール街のアナリストの間に非現実的な成長予測を生み出した。しかし株価は低迷し、業績挽回のために店舗をやみくもにオープンすることを余儀なくされた。凋落を招いたのはホールフーズ自身だったのだ。

アマゾンは恐るべき敵などではない。それどころか、業界最高の供給ラインから高品質の製品を選び抜いて販売する同社の強みを注入すれば、ホールフーズの救世主になるかもしれない。



売場面積当たりの売上高で見ると、ホールフーズは現在も世界で最も利益率が高い食品販売企業だ。成功例に分類される店舗はきれいで明るく、店内を歩くだけで楽しい。ほとんどのライバル企業がまねできない長所だ。そうした点を再度打ち出すことにアマゾンのジェフ・ベゾスCEOが力を入れれば、競合に悩む必要はなくなるのではないか。

創業以来、ホールフーズは大卒者が多く暮らす地区に出店するという、シンプルにして賢い方針をおおむね徹底してきた。市場調査が証明するように、食料品店は低所得層が多く住む地域に出店するより、競合店があっても富裕層エリアに店を構えるほうが売り上げがいい。ホールフーズの全店舗のおよそ25%は同社の別店舗の約8キロ圏内に位置し、47%は競合するクローガーの店舗の約5キロ圏内にある。

ところがホールフーズは近年、成長を要求される上場企業としての必要性に迫られ、あまりに急速に店舗網を拡大させてきた。そのせいで時に立地選びに失敗し、地元の好みに合わない店作りをしている。ニューオーリンズのブロード・ストリートという意外な場所で成功を収めたのは、ここでは出店前に綿密なリサーチをしたからだ。

「ジョンはずっと株式上場を後悔していたと思う」。昨年までホールフーズの米太平洋岸北西部地域社長を務めたジョー・ロゴフは、CEOのマッキーについてそう語る。「私は後悔した。ホールフーズとウォール街の両者が、会社は永遠に成長を続けるという夢物語を描いた。だから上場することにしてしまったのだろう」

【参考記事】アマゾンは独禁法違反? 「世界一」ベゾスにいよいよ迫る法の壁

不振店の閉鎖に踏み切る?

もう1つの問題はスペースだ。ホールフーズの店舗の大半は売場面積が約4500平方メートルに及ぶ。ほとんどの場合、不動産はリース物件だから、新規出店には巨額のコストがかかる。

その回収には安定した来客数の確保が不可欠だ。だが競合が加速するなか、ホールフーズの来客数は1年に3%、人数にして1400万人ずつ減少。既存店売上高は昨年、2000年代後半のグレート・リセッション(大不況)以来最悪の2.6%減を記録した。

それでも業界全体としてみれば、ホールフーズの業績は上々だ。利益率は2.8%で、業界平均の1.7%を大幅に上回る。

いまホールフーズがやるべきことは、業績不振店を閉めること。その多くは、株主の圧力を受けて急いで作った店だ。「ホールフーズには、生産性の極めて高い店が数百ある」と、不動産コンサルティング会社マクミランドゥーリトルのニール・スターンは言う。「業績不振店は100店程度だろう。数合わせのために開いた店だ」

不採算店を閉じれば、ブランドの再強化に力を入れられたかもしれない。ただ、それをうまくやるには、長期的なビジョンと、目先の利益をある程度犠牲にする覚悟が必要だ。ホールフーズの株主は、それを容認しなかった。マッキーは、独自のスタイルを貫くスーパーをウォール街に売り込もうとして、自らの手を縛ってしまった。



だが、アマゾンに身売りしたことで、マッキーはホールフーズを救えるかもしれない。「(マッキーは)自由と、大富豪の後ろ盾を得た」と、スターンは語る。投資家はベゾスの手腕を大いに信頼しているから、ホールフーズが値下げに踏み切り不採算店を閉鎖して利益が一時的に落ち込んでも、株主は大騒ぎしないだろうとスターンはみる。

アマゾンは「ホールフーズに、今までやってきたことを続けてほしいと思っている」と、関係筋は言う。「(ベゾスが13年に買収した)ワシントン・ポスト紙のように、株主やオーナーの圧力から解放されて、自由で斬新なビジネスを望んでいる」

とはいえ、近隣の小規模農家から仕入れた生鮮品を、通常のスーパーよりも2~3割高い価格で売ってきたホールフーズのビジネスモデルは、徹底的な効率重視でライバルを蹴落としてきたアマゾンとは正反対に近い。

アマゾンの登場によって廃業に追い込まれた個人書店や小規模出版社は少なくないし、アマゾンのベンダー(販売業者)は、ばか高い販売手数料を取られて激怒している。「私が知るアマゾンのカルチャーは、人間味がなく功利主義的だ。ベンダーは骨までしゃぶられ、吐き捨てられる」と、ロゴフは言う。「ベゾスがホールフーズのカルチャーを守ってくれるといいんだが」

【参考記事】アマゾン+スーパー、宅配改革への大勝負

身売りでイメージを一新

ホールフーズの関係者からは、ルーツに立ち返ってやり直そうという声も聞かれるが、それは決して容易ではない。ホールフーズのルーツであるオーガニック自然食品の市場は、以前よりもずっと競争が激しくなっている。それなら「大人の会社」らしくコストを削減して、集中管理を強化しては? 「結構だが、それでは消費者をワクワクさせるという、昔ながらの魅力が失われてしまう」と、スターンは語る。

値下げもそんなに簡単ではない。「昔は、『ホールフーズは高い。でもその価値はある』という客が大半だった。でも今は『ホールフーズは高い。ぼったくりじゃない?』という人が増えた」とスターンは言う。「そう思われてしまったら、値下げしただけでは、信頼を回復するのは難しい」

その点、アマゾンによる買収は、大きなイメージチェンジになるだろう。アマゾンの成長見通しにとっても、ホールフーズの買収はプラスになる。「食品は小売業でも世界最大のカテゴリーだ」と、スターンは言う。アマゾンは7年前に生鮮食品配送サービス「アマゾンフレッシュ」を開始したが、アメリカではまだ5都市でしかサービスを提供できていない。



ホールフーズ買収でそれも変わるだろう。アマゾンは8月28日から、ホールフーズの生鮮品の取り扱いを開始。バナナやスモークサーモン、オーガニック卵などの一部定番商品は値下げすることも発表した。さらに今後は、ホールフーズの一部店舗で、アマゾンで注文した一般商品を受け取ることも可能になるという。

ホールフーズとしては今後、総菜(中食)に力を入れるのもいいかもしれないと、業界コンサルタントのロジャー・デビッドソンは言う。例えば、イギリスでサンドイッチ店としてスタートした「プレタ・マンジェ」は、ニューヨーク、ワシントン、ボストン、シカゴなどの都市部に大量出店して大いににぎわっている。

140平方メートルほどの店内は、一方の壁が冷蔵ショーケースになっていて、その日その店で調理されたサラダやサンドイッチがずらりと並ぶ。どれもオーガニック食材を使ったものだ。店の奥では、コーヒーとペストリーが置かれており、イートインコーナーもある。だがそれだけだ。リンゴもトイレットペーパーも置いていない。

【参考記事】リアル世界に生まれるフェイスブックの共同体

「時代は、大量生産された加工食品から、地元の食材を使った新鮮でヘルシーな食品に移っている」と、デビッドソンは語る。彼によると、現代の食品スーパー業界を生き抜くには、価格、便利さ、新鮮さの3つのうち、どれか1つで優れている必要がある。

「アルディやリドル、ウォルマートは価格が強みだ。アマゾンやプレタ・マンジェは便利。ホールフーズは新鮮さが売りだった。最近はちょっとのんびりして、努力を怠っていたけどね」

ベゾスの下で、ホールフーズがどんな変化を遂げるかは、まだ分からない。だが、のんびり努力を怠っている余裕がないのは間違いないだろう。


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[2017.9. 5号掲載]
ウィンストン・ロス

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